離婚は、法的な手続きであると同時に、人生の大きな転機でもあります。その際、婚姻(結婚)によって名字(氏)を変更した側は、必ず「離婚後の名字をどうするか」という選択を迫られます。
このルールを定めているのが民法第767条です。 この記事では、あなたが選べる選択肢、必要な手続き、そしてその選択が将来にどう影響するかを、網羅的に解説します。
第1章:民法第767条が示す「2つの選択肢」
離婚後の名字には、法律上2つの道が用意されています。
1-1. 原則:結婚前の名字(旧姓)に戻る(復氏)
民法第767条1項 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。
これは「復氏(ふくし)」と呼ばれる原則です。 離婚届を提出すれば、自動的に結婚前の名字に戻ります。特別な申請は不要です。精神的に新しいスタートを切りたい方、旧姓に愛着がある方に選ばれます。
- メリット:新たなスタートという実感が得やすい。
- デメリット:銀行口座、免許証、パスポート、クレジットカード、仕事の名刺など、あらゆる名義変更手続きが発生し、非常に手間がかかる。
1-2. 例外:結婚中の名字を使い続ける(婚氏続称)
民法第767条2項 前項の規定により婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から3箇月以内に…届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。
これが「婚氏続称(こんしぞくしょう)」の制度です。 仕事上のキャリアや、子供の学校生活への影響を考え、結婚中の名字を使い続けたい場合に選択します。
- メリット:名義変更の手間が一切かからず、社会生活上の不便がない。
- デメリット:精神的な区切りがつきにくい。一度選ぶと旧姓に戻すのが困難。
第2章:「婚氏続称」を選ぶための【重要ルール】
もし「婚氏続称」を選ぶ場合は、絶対に知っておかなければならないルールがあります。
2-1. タイムリミットは「離婚成立から3ヶ月」
これが最も重要です。 「離婚の日から3ヶ月以内」に手続きを完了させる必要があります。「離婚の日」とは、協議離婚の場合は離婚届が役所に受理された日を指します。
この期限を1日でも過ぎてしまうと、この簡単な届出(婚氏続称届)では一切受け付けてもらえません。
2-2. 手続きは「婚氏続称届」を出すだけ
手続き自体は非常にシンプルです。 「離婚の際に称していた氏を称する届」という書類(役所にあります)に記入し、提出するだけです。
- 元配偶者の同意や署名は不要です。ご自身の意思のみで決定・届出ができます。
- 離婚届と同時に提出することも可能です。
2-3.【最大の注意点】一度選ぶと、旧姓に戻すのは非常に困難
「婚氏続称を選んだけれど、数年後にやっぱり旧姓に戻したくなった」 これは非常に困難です。
婚氏続称の届出は、役所で「取り下げ」ができません。もし旧姓に戻したい場合は、「やむを得ない事情」があるとして家庭裁判所に「氏の変更許可」を申し立てる必要があります。 「気分が変わったから」という理由では、まず許可されません。非常に重い選択であることを覚悟してください。
第3章:親の名字と「子供の名字」は別問題
離婚後の名字選びで、多くの方が誤解しているのが「子供の名字」との関係です。
親がどちらの名字を選んでも、子供の名字と戸籍は自動的には変わりません。
- 原則:子供は、離婚によって戸籍から抜ける親(名字を変えた側)とは別の戸籍(結婚中の戸籍)に、結婚中の名字のまま残ります。
- 例:母(旧姓:鈴木)が離婚し、親権者となった。
- 母が旧姓「鈴木」に戻った → 母は「鈴木」、子供は「佐藤」のまま。
- 母が婚氏続称で「佐藤」を名乗った → 母は「佐藤」、子供も「佐藤」のまま。(※ただし戸籍は別々です)
もし、旧姓に戻った親が「子供も自分と同じ旧姓にしたい」と希望する場合は、まず家庭裁判所で「子の氏の変更許可」の申立てを行い、許可審判書をもらった上で、役所に入籍届を提出する必要があります。
まとめ:あなたの未来にとって最善の選択を
民法767条は、離婚後の人生設計に関わる重要な条文です。
- 原則は旧姓に戻る(復氏)
- 例外として「3ヶ月以内」なら結婚中の名字もOK(婚氏続称)
- 婚氏続称は、一度選ぶと戻れない覚悟を
- 子供の名字は、親とは別に手続きが必要
ご自身の仕事のキャリア、お子様の生活環境、そしてご自身の「新しい人生」への思いを天秤にかけ、この「3ヶ月」という期限内に、後悔のない決断をしてください。

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