はじめに:その「当たり前」、誰にとっても当たり前?
皆さんは「ノーマライゼーション(Normalization)」という言葉を聞いたことがありますか?
IT業界では「データを整理すること」を指しますが、社会福祉の世界では、もっと人間の根源に関わる、とても温かく、かつ力強い意味を持っています。
今回は、現代の福祉を語る上で欠かせない、この「ノーマライゼーション」という考え方について、わかりやすく紐解いていきたいと思います。
1. ノーマライゼーションを一言でいうと?
結論から言うと、ノーマライゼーションとは以下の考え方を指します。
「障害のある人が、障害のない人と同じように、地域で『当たり前の生活』ができる社会こそがノーマル(正常)である」
かつて、障害のある人は「かわいそうな存在」として、人里離れた施設で保護されたり、特別扱いされたりするのが一般的でした。
しかし、ノーマライゼーションはこれに「NO」を突きつけます。 「障害者が社会に合わせて努力する」のではなく、「障害があっても暮らしやすいように、社会の側が変わるべきだ」という、コペルニクス的転回とも言える発想の転換なのです。
2. 具体的に何が「当たり前」なの?(ニィリエの8つの原理)
「当たり前の生活」と言われても、少し抽象的ですよね。 この概念を世界に広めたスウェーデンのベンクト・ニィリエは、これを「8つの原理」として具体的に定義しました。
これを見ると、私たちが普段意識していない「日常の尊さ」に気づかされます。
- 1日のリズム:朝起きて着替え、活動し、夜寝る(ずっとパジャマで過ごさない)。
- 1週間のリズム:平日(仕事や学校)と週末(遊びや休息)の区別がある。
- 1年のリズム:お正月、クリスマス、誕生日などの季節感を楽しむ。
- ライフサイクルの経験:子供時代は遊び、大人になれば働き、自立する(大人なのに子供扱いされない)。
- 自己決定権:自分の着る服、食べるもの、住む場所を自分で決める。
- 異性との関係:恋愛をしたり、結婚したりする権利。
- 経済的基準:社会の平均的な経済水準で暮らす(自分のお小遣いがある)。
- 環境の基準:一般市民と同じような建物や地域で暮らす。
いかがでしょうか? これらはすべて、私たちが「普通」に享受していることばかりです。この「普通」を、障害の有無に関わらず誰もが手に入れられるようにしよう、というのがノーマライゼーションの核心です。
3. 歴史:「施設から地域へ」
この考え方は、1950年代の北欧(デンマーク)で生まれました。 当時の知的障害者の施設があまりに劣悪な環境だったのを見て、行政官のバンク=ミケルセンが「彼らを人間として扱え!」と声を上げたのが始まりです。
この叫びは世界中に広がり、現在の日本でも、
- 大規模な入所施設から、街中のグループホームへ
- 特別支援学校だけでなく、地域の学校での交流教育へ
- 段差をなくすバリアフリーやユニバーサルデザインへ
といった形で、具体的なアクションとして根付いています。
4. 私たちにできること
ノーマライゼーションは、行政や専門家だけが頑張ればいいものではありません。 「社会が変わる」ということは、「そこに住む私たちの意識が変わる」ということでもあります。
- 街で困っている人がいたら声をかける。
- 点字ブロックの上に自転車を停めない。
- 「障害があるから無理だろう」と勝手に決めつけない。
そんな小さな心のバリアフリーが、ノーマライゼーションの実現には不可欠です。
おわりに
「障害者を特別扱いする」のではなく、「同じ社会の仲間として共に生きる」。
ノーマライゼーションという言葉が使われなくなる(=わざわざ言わなくてもそれが当たり前になる)未来こそが、私たちが目指すべきゴールなのかもしれません。
もし街中で車椅子の方や、白杖を持っている方を見かけたら、今日の話を少しだけ思い出してみてください。そこから、優しい社会への一歩が始まるはずです。

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